「痛っっ!!」


驚きと痛みで短い悲鳴をあげると
その人は変わらず
左手で私の手首を掴んだまま
むっくりと起き上がり

右手で髪の毛をガシガシと掻きながら
顔を私の方に向けた。

肩に付いた細かい砂がパラパラと落ちる。


そして冷めた目つきで
私の濡れた全身に視線をやると
つまらなそうに呟いた。


「そんな全身ずぶ濡れで
何やってんの?
服着たまま海水浴とか?」

「………」


この状況に頭がついていかなくて
言葉を発することが出来ないまま
唇を固く閉じた私を見て

その人は波打ち際の
私の転がってるサンダルに視線を向けた。

そしてフッと鼻だけで笑うと
全部解り切った顔で
馬鹿にしたような低い声を出す。


「ああ、自殺か。
こんな朝っぱらからご苦労様だな」


無表情に響く言葉とは違って
私の手首を掴んだ手に力を込めて
ギリギリと締め付ける。


「でもそれなら何でこんなとこにいる訳?
やっぱり怖くなって
逃げ帰って来たとか?」


人を見下した視線に
反射的に頭に血が上った。


「――違う!!
だってあんたがこんなとこにいるから
もしかして死んでるのかもとか!」


ムキなって大声をあげると
そいつは少し驚いたように目を見開いた後
さらに腕に力を込めた。


「ふーん、お前人の事心配する前に
自分なんとかしろよ」

「……だから痛いッ!
腕離してよ!!」


悲鳴を上げた私を一瞥して
でもそのまま無視を決め込んで。


「俺は別にお前が死のうが
生きようがどうでもいいけど
こんな場所で死ぬとか迷惑極まりないだろ。

俺この海で生まれ育ったのに
お前が自殺とかしたら
気持ち悪くてもう入れねぇじゃん」

「………」


キモチワルイって何その言い方。


「しかもこんな明るい時間に
こんな場所で。
近所の海水浴場に
お前の死体が流れ着きでもしたら
みんなトラウマんなって
海嫌いになんだろが。
自分勝手にもほどがあんだろ?」


何なのコイツ。

人の神経を逆なでするような言い方で
鋭い言葉がグサグサと私の心を切り付ける。