家に帰ると、
将一君と杏里ちゃんが
『クロに噛まれた」
と三洋君に話していた。

三洋君はとっても怖い顔で僕のそばに来ると
僕を怒った。

僕は落ち込んでいた。
夜になると、いつもより早い時間に
明日香ちゃんが帰ってきた。

『ただいまぁ。クロ～。今日もかわいいなぁ』

そう言って明日香ちゃんはいつものように
僕の隣に座り、たばこを吸い始めた。

「今日のこと知ったら、明日香ちゃんにも怒られるんだろうな。
将一君言わなきゃいいのに』

そんなことを思いながら落ち込んでいると、

『今日は元気ないね。なんかあった？』

明日香ちゃんにはなんでもお見通しなのだろうか？
でも僕は
『何にもないよ』

って言って精一杯明るくして見せた。

そこに将一君がやってきた。
『明日香、今日なクロに噛まれた』
『何で？』
『わかんねぇ。公園に連れて行ったら、テンション上がって噛んできた』

『う～。怒られる…』
そう思っていた。

でも、違う反応が返ってきた。

明日香ちゃんは僕を撫でながら
『あはは。お兄ちゃん馬鹿だぁ。
お兄ちゃんだから噛まれるんだって。
あたし、噛まれないもん。お兄ちゃんって噛みやすいんじゃない？
ねぇ？クロ。よくやった』

『俺も噛まれるなんて思ってなかったし。』
なぜか、将一君も笑っていた。

将一君は笑いながら、茶の間に戻っていった。

明日香ちゃんは笑っていたけど、
僕は悪いことをしたってわかっていたから、
怒られるんだろうなと思って恐る恐る
明日香ちゃんの顔を見上げた。