本来ならば学校へのケータイは持ち込み禁止なのだが、何人かはこっそりと持ってきているのだ。それらが一斉に、悠太へと向けられていたのである。

中には「悠太の怒った顔〜♪」と笑いながら今も撮っている者がいて、本人にとっては迷惑なことだった。

許可なく勝手に写真を撮られる芸能人の気持ちを、味わっているような気分だ。

悠太がその中の一人のケータイを取り上げようと手を伸ばした時、

「……悠太」

ドスの利いた低い、静かな声が背後から聞こえてくる。

「あんたさっきから一人で、何を騒いでいるのよ」

声の主は既に、怒りで顔を引きつらせていた。

「それとも、自分から私との対決を申し込んでおきながら今更怖じ気づいて、このまま逃げようとか考えているんじゃないでしょうね」

さやかは腕を組み、冷ややかな眼差しで悠太の背中を睨み付けた。

「逃げる、だと?」

その背中が、ピクリと反応する。

「勘違いするな。この俺が逃げるわけないだろうが」

そう言いながら改めて、真っ直ぐにさやかと向き合ってはいたのだが。

(ちっ、引き延ばし作戦は失敗か)

心の中では舌打ちをしていたのである。

(このまままともにやりあっても、力と体格が違いすぎて俺には勝てない)

悠太は自信に満ちた、さやかの顔を睨み返しながら思う。

これで負けた場合には恐らくまた、彼女に頭が上がらなくなるのだ。

更には負けた瞬間の悠太の写真が出回り、女装姿の生写真も売買されるかも知れない。

(圭吾なら絶対そういうの、喜んで売りそうだもんな)

憲泰にわざわざ写真を撮らせているのはそのために違いないと、横目で当人を見ながら確信する。

(だったらそれを、勝利写真に変えればいいだけの話だ)