男に殺気は感じられない。

「お前の存在が必要以上に邪魔だと判断しただけだ」

拳を握り締めて、男に対して戦闘態勢をとる。

男は構えようとはしない。

緊張感漂う空気でも寝不足には勝てないのか、あくびをしている。

「すまんすまん。それより、お前、解ってるのか?」

「何がだ?」

「お前は日本という母国を守りたいわけだよな?」

「解っている事を聞くな。返答するのが面倒くせえ」

「確認ぐらいはさせてくれてもいいんじゃないか?」

会話はスムーズに進んで欲しいものだ。

秋野に会いに行くことを一番だと思っているので、切り上げたい。

「退魔師は知っているだろうが、テンプルナイツっていうのは知ってるか?」

「何だ、それは?」

退魔師と同列の組織か?

日本の外に面倒くさい敵対者がいるのか。

聞いた事がないな。

「日本を守りたいというのは痛いほど解るんだがよ。だが、悠長な事を言ってる場合じゃないんだぜ?」

「遠まわしに言うんじゃない。聞いてるほうが眠くなる」

「テンプルナイツは退魔師とは違う思想で動いている。お前ら、自分たちの理念ばかり守っていると呆気なく死ぬぜ?」

どんな強力な組織だかは知らんが、俺らにとっては人間と変わらない。

「出来ると思っているのか?」

「出来るから言ってるんだ」

男のニオイから表情にかけて、静かな怒りという感情が表れる。