男のおかげでガキの命は助かったようだ。

「あぶねえだろうが!」

停まった車から運転手が顔を覗かせて一言残し、走り去った。

「ふう、良かったな」

コートの男は、立ち上がってガキの服についた汚れを払う。

「簡単に道路に出ちゃ駄目だ。皆に迷惑がかかるぜ」

「うん、ありがとう」

ガキに悪びれた素振りはないが、礼だけを言って去っていった。

コートの男の必死な苦労もガキにとってのありがたみは軽かったようだ。

「丞、将来有望な男だったアルか?」

緑色の髪をした女がコートの男に近寄ってくる。

「そんな事を見てる余裕はなかったよ」

「残念アルな。ビッグな男になるならアチシの愛人にしてやろうと思ったアル」

妙なニオイが鼻をついた。

千鶴に非常に良く似たニオイ。

血縁者といってもいい程だ。

今日は変な者に会う事が多い。

しかし、何者なのか気になった。

「テメエら」

普段は湧かない興味から、自然と声が出ている。

二人はこちらを向く。

「何か用か?」

「中々の美形アルな。アチシとハネムーンはいかがアルか?」

男は表情変えずに受け答えするのだが、女は俺の肩に肘を置いて妙なことを言い始める。

肩の肘を払いのけて、睨む。

「テメエは、何者だ?」

一人は純血。

だが、人間のニオイを色濃くさせている。

一人は混血。

だが、純血に近いニオイがする。

コートの男は驚いた顔を見せていたが、瞬時に真剣な顔に戻る。