記憶の一部が破損しているというのか。

「どうでもいい記憶なんだろう」

「そうかな。大切なものかもしれないよ」

解らない記憶に執着する理由があるか。

「だったら、覚えていてもいいはずだ」

千鶴がやり取りを伺っているが、焦っているようだ。

「あ、そろそろチャイム鳴っちゃうね」

「このままじゃ、遅刻しますよ」

遅れたところで何があるわけでもないだろう。

「刃さん、後は真っ直ぐ行くだけだよ」

笹原妹は走り始めた。

「おい」

「ごめん、今日は学校に早く行かなくちゃいけないの。千鶴も、大学があるんでしょ?」

「あ、そうですね。私も失礼します」

笹原妹と千鶴は俺を取り残して、走り去って言った。

「一緒に行く必要がないのなら、それでいい」

厄介な相手が消えてくれて清々してるところだ。

「行くか」

笹原妹の言い方であれば、そろそろ辿り着く頃だろう。

余計な時間を食ってしまったが、終わりはすぐだ。

俺の視線の先には人間の小さなガキが道路を渡ろうとしている。

歩道と道路にきっちり区分けされており、車も通っている。

当然、ガキが車に轢かれることもある。

今みたいに、急に来た車によってな。

クラクションのなる車は急停止することが出来ないらしい。

ガキは車の来る方向を見ているだけだ。

「死ぬな」

ガキ自身も諦めていただろう。

「よっと!」

横から飛び出してきた男がガキを捕らえて、歩道へとダイブする。