アキレス腱固めから解放された飛鳥は余裕で立ち上がりながら笹原の前に立った。

何故か、俺だけが疲れているようだ。

「ボンクラなフィアンセの世話をご苦労だった」

「飛鳥さんと刃さんって、婚約してたんだ」

「冗談を真に受けるな。それと、お前は頭を冷やせ!」

後ろに回りこんで腰に腕を回し、ブリッジの姿勢になって飛鳥の頭を地面に打ち付けた。

「行くぞ」

「え、でも」

飛鳥のことを心配しているようだが、こいつに使う一分一秒がもったいない。

「構ってると余計な時間を食う。放っておけ」

マンションの外に出ると、雲ひとつない空から光が直接降り注ぐ。

「変わらないのは空だけか」

遠く離れた空の模様は替わることなく、青で構成されていた。

地上は過去とは違う風景で成り立っている。

今では当たり前だと言わんばかりに、人間達が歩いている。

「今日もいい風が吹いてるね」

追いついた笹原が横に並ぶ。

風によって靡いている髪が、光によって蒼さを増していた。

「何で男物の制服が用意してあった?」

女だらけの家に男物の服があるのはおかしい。

太った時のために用意しているとか、馬鹿な話はないだろう。

「私がマンションに来た時に色々なサイズのブレザーと、スカートとズボンが用意されてあったんだ」

赴任してきた暁には学校へ行けと言っているようなものだ。

代表者が男でもいいように置かれてあったというわけか。

「じゃあ、何か?この地区に飛ばされた代表者は学校に通うことが義務付けられているのか?」

「そういうことじゃないと思う」

保守派の目的を思い出す。

改革派の監視、動きを予測するための資料の作成だったはずだ。