「お母さん、魅力的だもんね」

笹原は頬を紅く染めながら、妙なことを想像して焦っている。

「何故、アバンチュールな夜を過ごして、体力をすり減らさなくちゃならない」

「でも、男と女が抱き合ってるってなると、白とは思えないんだけどな」

変な勘違いで窮地に陥れようとする妹とのやり取りが面倒だ。

「俺は出て行くからな」

「朝ごはんぐらいは食べていきなよ」

「必要ない」

邪魔な腕をどけて立ち上がり、身なりを整える。

しかし、体は正直なもので、腹の音が数秒間なった。

「面倒な体だ」

「ちゃんと体調管理しないと、体壊しちゃうよ」

「どうでもいい」

背後から弾丸のように何かが飛んでくる気配を感じた。

咄嗟にソレを掴んで、握りつぶす。

掌の中を見ると、粉々になったチョークだ。

「お姉ちゃん」

笹原妹の背後に立つ眠そうな瞳の冬狐は、白いワイシャツとパンツでタオルを首にかけていた。

ニオイからして、風呂にでも入っていたのだろう。

「美咲の優しさに涙してもいいところよ」

姉や母は妹の事を愛しているらしい。

「家に泊まったおかげで大変な目にあった」

冬狐の視線が裸の母親に行く。

「被害者面するわりにやったわけね。アンタも若いわねえ」

「自分の母親がどういうものか知らないのか?」

「お盛んなのはいいけど、あんまりドタバタしないでね。途中で起きるのも嫌だから」

言いたいことだけを言って、廊下を歩いていく。