娘の部屋だろう。

「旦那の事を夢で見るなら、里に帰れよ」

笹原の親子が非常に面倒くさい。

腕を振りほどき、上から布団をかけて押さえつける。

静かな寝息の音が聞こえ始めると、ベッドから離れた。

床に横たわる。

「今日一日の我慢だ」

今勝手に出て行けば、笹原に町で出会った時にどんな仕打ちを受けるかわかったものではない。

今日だけは大人しく寝て過ごし、後で動きやすくなった方がいい。

「余計な事は考えるな」

寝る事に専念して、瞳を閉じた。

しばらくすると、眠りの奥底に辿り着いたようだ。


精神は夜を越え、朝へと生まれ出。


光に敏感な体は自然と瞼を上げる。

雀の鳴く声は朝の象徴であり、光を好む人間達が外を出回る時間だと教えた。

「朝か」

思ったよりは眠れたらしい。

時計は朝七時を過ぎていた。

「休んだ約束は守った。出るぞ」

起きようとしたが、体が重い。

胸の辺りを見ると、笹原母の腕が巻きつけられている。

「寝相が悪いな」

もう朝だ。

家族が起き上る頃だろう。

「この状況は面倒を巻き起こす」

離れようとしたところで扉が開く。

「ちょっとお母さん。また、私のへ、や」

俺とブレザーを着た笹原の目が合って、一瞬だけ時間が止まる。

「お前が押さえとかないから部屋に来た。それと、裸なのは注意しておけ」

焦る必要はない。

昨日の晩は何もなかった、清廉潔白なのだ。