『なー、ひーちゃん。』
ソファーに座って拗ねるあたしをどうにか
機嫌よくしてもらおうと父さんは必死だった。
何、父さん?
言い訳なら上手いこと言ってよね。
どんなところに行ってたの?
祭りのこと忘れるぐらいのところなんでしょうね?
『ひーちゃん、ごめんって。』
すぐには許してあげないんだからね。
無事に帰って来たことは良かったと思う。
でも、あたしとの約束を破るなんてあんまりじゃないか。
毎日、父さんが帰って来るんじゃないかって待ってた
あたしの気持ちを思い知ってよね。
『機嫌直してくれよ?』
父さんが嘘を吐くからじゃない。
あたしとの約束を忘れちゃったなんて酷いよ。
あたしは毎晩毎晩今日の日を楽しみにしてたんだよ。
今年は父さんと一緒にかき氷食べるはずだった。
去年は駄々こねて父さんが1人寂しくかき氷
を食べてたからね、今年はレモン味で手を
打ってあげようと思ってたんだからね。
『ひーちゃん、父さんが悪かった。』
だけどね、父さんと一緒に行けなくて
寂しかったんだよ。
今年もたこ焼き屋のお兄さんはタコみたいだった。
いつも買うラムネのおじちゃんは顔を覚えてくれてて、
おまけにキャンディーを貰ったんだ。
兄ちゃんが金魚をすくってくれたの。
お兄ちゃんが射的でクマさんを取ってくれたよ。
今年は父さんと一緒に行けなくて悲しかった。
楽しいはずの祭りが物足りなかったんだよ。
ずっと一緒に行ってあげるから、もう約束
破るとかなしだからね。
『父さんのアホポンタン。』
それで、もう許してあげるよ。
うわ~んって泣くあたしを父さんはオロオロしながら
抱き上げてくれた。
ごめんなっていう父さんがあんまりにも切実だった。
本当に悪いと思ってる父さんに流れる涙を拭って
もらって落ち着くまで抱っこしてもらった。