そんなに泣く子ではなかった。
転んでもおもちゃを取られても決して泣く
ような子どもじゃなかった。
だから、兄ちゃんたちも父さんも心配して
くれたことがあった。
我儘だって殆ど言わなかった。
父さんが約束を守ってくれなかったのが
すごく悲しかった。
兄ちゃんたちが悪いわけじゃないの。
あたしが子どもみたいにこんなことで
泣くあたしが良くなかった。
『兄ちゃんもお兄ちゃんも一緒に行ってくれてねっ、
・・・ッ・・すごく嬉しかったよッ」
でもね、どうしてだろうね?
こんなに悲しいのは何でかな?
それなのに、涙が出てくる。
『父さんが嘘吐いた・・・ッのが
悲しいの。』
兄ちゃんはオロオロしながら道端で
でんぐり返しをした。
お兄ちゃんは高く抱き上げてヨシヨシ
してくれた。
きっと、泣いたあたしを見るのは珍しい
ことだったからだ。
『そうだよな、父さん帰って来なかったもんな。
ひーちゃんとの約束破っちゃったんだもんな。』
兄ちゃんのでんぐり返しで若干涙が引っ込んだ。
何で、そこででんぐり返しなんてしちゃうんだ?
普通はそこ慰めたりしないか。
それほど、兄ちゃんはパニックだったみたいだ。
お兄ちゃんに抱っこされたまま放心状態だった。
兄ちゃんはそれからもあたしを笑わせようと
必死に考えた。
でんぐり返しで十分だったと思う。
家の門まで潜ったところで3人して顔を合わせた。
家は今誰も居ないはずなのに電気が付いてた。
兄ちゃんは泥棒かもしれないとか言い出して、
玄関の方に立てかけてあったホウキとちりとり
を構えて先陣を切った。