好きな色はって聞かれたら真っ先にオレンジを
選び、好きな食べ物はって聞かれたらオレンジ
っていう子どもだった。
父さんが好きなオレンジがあたしの生まれた日に
植えたオレンジが好きで好きでしょうがなかった。
「だから、昔の話するとさオレンジ味のかき氷
がなくて駄々こねて父さんを困らせたことがあるんだよね。」
いちごがあるよって言う父さんに半べそかいて
嫌だよってすごく困らせた。
父さんはあたしが泣くと世界が終わったかのような
落ち込み方をする。
「あ、前は味が決まってたからな。
メロンとかレモンとかいちごとか。」
そうなのだ、よく御存じじゃないかユウヤ。
だから、何でオレンジがないのって父さんに
答えられないようなこと言って酷いこと言った。
ないものはないって諦めれば良かったんだ。
父さんを困らせることしなきゃ良かった。
「夏祭りに行くとね、決まってあたしが
そう言うからね、父さん祭りが好きなのに
祭りが嫌いになりそうだってダディに言ってた
らしいんだ。」
父さんが好きなものをあたしが嫌いにしちゃった
のかなってすごく後悔した。
我儘言って父さんを困らせること言わなきゃ
良かったよって思った。
「そりゃ、それだけ言われたらな。」
だよね、慶詩だってそんな娘嫌だよね。
「それでね、父さんが哀愁漂わせて
寂しそうにするから次に行くときは
我慢してレモン味にするって言おうと
思ってたんだ。」
あの日の情景が思い浮かぶ。
あたしはいつも逸れないようにって
父さんの肩に乗せられて肩車だった。
それがいつも見る光景と違って景色
よく見えたのがほんの少し嬉しかった。
父さんの肩車は大好きだった。
身長が低いあたしが大きくなれる
瞬間だった。