そんなある日、サユがまた男の子と喧嘩を
しているところを見た。
飛び蹴りをしている場面をばっちり見たのだ。
サユも少し怪我をしていて口が切れていた。
他の子はサユを見て逃げ帰るところだった。
「あんただって、あたしが怖いんでしょ?」
傷の増えるサユを心配に思った。
怖いとかそういう前に、女の子なのに毎日
傷を作ったら駄目じゃないかとそう言いたかった。
「喧嘩はしちゃ駄目です。
サユちゃんは女の子なのですから、
傷が残ってしまったら大変です。」
サユにハンカチを差し出して口に当てた。
「・・・な、何よ・・」
「向こうに水道があります。
そこで少し濡らしてきますから、
ベンチに座って待っているんですよ。」
ひよこのハンカチを濡らしてベンチに
座るサユに差し出した。
「あんた怖がらないの?」
そんなことより、お口が痛そうです。
とても見てられないわ。
「痛くないですか?
こういう時は何が良かったかしら?
えっと、ちちんぷいぷい痛いの痛いの
飛んで行け~です。」
そんな呪文を唱えるあたしに初めて
サユは笑った。
「それ言う子が居るなんて思わなかった。」
サユが笑うとすごく嬉しくなった。
何だかとっても心が温かくなった。
「父さんが教えてくれた呪文です。
痛いのがどこかに飛んでいくそうです。
どうですか?少し痛いいのどこか飛んで
行きましたか?」
見た目は変わってない。
「うん、少しどっか行ったみたい。
あんたっじゃなくて・・・日和。
ハンカチ血だらけになってごめんね。
えっと・・・・そのありがとう。」
父さんがありがとうは人を幸せにする言葉だって
言っていた意味が少しだけその時分かった気がした。