昔話を人に話すのは結構不安になる。

人に話すのはこれが初めてかもしれない。

サユとあたしの馴初め話。

小さい頃からその子が向かいのお家の子だって

ことはよく知っていた。

母さんがその子のお母さんと仲が良いのも聞いてた。

兄ちゃんとその子のお兄ちゃんが友達同士なのも

知っていたし、その子のお父さんがよくあたしに

話しかけてくるのもあった。

それまではとくに友達が欲しいと思ったことは

なかったはずだ。

兄ちゃんやあの人がいつも遊んでくれた。

その子に初めてあったのはピアノのお教室から

の帰りだったと思う。

あたしと同い年とは思えないぐらい昔から

サユは綺麗でそれはそれは美しい女王様と

言ったらいいのだろうか?

こんなに綺麗な子が居るものなのかと疑った。

あのゴリラみたいお父さんからこんな美しい

子が生まれるなんてある意味興味が引かれた。

その時のサユはいつも生傷が絶えない子で、

よくサユのお父さんであるダディから家の

子は喧嘩早いからと聞かされた。

サユの家は道場でダディは先生をしていた

こともあってサユは小さい頃から足技背負い投げ

殴るというのがとてつもなく身についていた。

だから、近所の子がサユを見るとすぐに逃げて

行くのをこの時から見ていた。

最初はちっともサユと話すことが出来なかった。

あたしが気弱なのもそうだ。

もしかしたら、あたしみたいな弱っちいヤツとは

友達になりたくないと思われるかもしれないと

思ってダディに弟子にしてもらおうかと思ったぐらいだ。

「サユリちゃん、怖い~」

そう言って逃げていく男の子をサユはいつも寂しそうに

見ていたのをよく知っている。

どうしたら、あの子は笑ってくれるんだろう?

一度もあの子が笑ったところを見たことがない。

すごく優しそうな顔をして花壇の花を一生懸命

直そうとしていたところを見てあたしは勇気を

出して初めてサユに話しかけた。