馨が冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出そうと

したらその男が冷蔵庫を覗いていた。

「俺はお茶よりこっちのがいいな。」

オレンジ色のラベルのそれを遠慮なく引き抜くと

またしてもソファーに腰を下ろしてペットボトル

の蓋を捻った。

「それで、君の名前何だっけ?」

千治に向かってそう尋ねる男に知ってるとか

言ってなかったのかよって言いながら、

「黒宮千治」

千治が呟いた。

「そうか、千治君ね。

おじさん、あんま人の名前は覚えられないタチなんだ。

動物の顔は結構覚えてんだけどね。」

その男はヘラヘラした口調を変えることなく、

「それでさ、いつまで突っ立てるのかな?

千治君座ってるんだからお兄さんたちも

座ろうか。話出来ないからね。」

オレンジジュースと書かれたペットボトル

を流し込んでから俺らに視線を向けた。

「千治を殴ったのはお前か?」

慶詩は事務所机に座って腕を組んだ。

「あ、ついね。

俺の可愛い天使を掻っ攫った罰ぐらい

受けてもらいたくてね。」

男はそう言って笑った。

「はぁ?」

誰も話が読めないのかユウヤがそれを口にした。

「まだ、分かんないのか。

ほら、俺の顔を見て何かに気付かない?

千治君はすぐ分かったけどね。」

男の顔をじっくり見てると何か違和感を覚えた。

「・・・ひよこの」

京がハッとして呟く。

「ひよこ?あ、俺の可愛い天使はひよこが好きでね。

今は確かひよこ柄のパジャマで寝てるって聞いた

ような・・・何、その目は千治君!」

千治の冷ややかな視線に男がビビる。

「本当に親父か?」

千治のその言葉にこの場に居るヤツが全員

驚いたのは言うまでもなかった。