「分かることが一つある。

下のヤツが蹴散らされたな。」

どう見たってさっきまで溜まってたのが

血相変えて逃げていったとしか言えない。

「そうだな、人数どころか人影一つ見当たら

ねぇってとこか?」

窓に一番近い俺の言葉を聞くと馨がオロオロ

しながら落ち着かないナルをソファーに座らせた。

「ナル、そこから動くな。」

ナルとは打って変わって至って冷静な馨。

「何者だよっ!下のヤツが一気に散ったんだろ?」

慶詩が椅子を蹴飛ばしガタンと音を立てて

倒れる椅子が無残に転がる。

「とりあえず、こっちでどうにか出来るレベル

か判断が出来ない以上は相手の出方を見るのが

良さそうだな。」

馨の言葉に京が頷く。

ユウヤもウロウロしていた足を止める。

その時だった。

事務所の扉が音を立てて開く。

ガチャンと鳴ったその音を辿るように

そこを見て目を疑った。

目の前に移る光景に驚いたのは俺だけじゃなかった。

すぐさま、俺を含めた全員が両手を上げて

丸腰なのを知らしめる。

「一回やってみたかったんだよなっ」

ヘラヘラ笑う男に慶詩は警戒しながら、

京に合図を送る。

片足を器用に動かして立てかけてあった

パイプを蹴る京。

「京、手出すな。」

目だけじゃなく耳まで可笑しくなったのかと

思って目の前で身動きを封じられた千治を見た。

「ちっ、ちぃー!!」

ナルが今にも駆け出しそうなのを馨が押さえつけた。

拳銃を千治の頭に突きつけた男はヘラリと笑うと、

「まぁ、警戒しない方が可笑しいか。

でも、お兄さんたちそんな怖い顔しないでくれよ。

俺はお兄さんたちには何もする気はないからさ。」

事務所にズカズカ入って来た。