「ハツル、お引っ越しをするの。新しい幼稚園に通うのよ」
「うん。じゃあ、おわかれかいしてもいい?」


 物わかりのいい子供だった。
 愛想のいい子供だった。
 頭のいい子供だった。
 可愛い子供だった。


 その頃は私をハッチと呼ぶ人はいなくて。
私はちゃんと、「ハツル」と呼ばれてた。
 今から10年以上前の話。
もう記憶もおぼろげで、忘れてしまったことの方が多い。
 私を「ハッチ」と呼び始めた人のことも、もう記憶の霧のかなただ。


 7歳。小学1年生の時にオトウト様が生まれた。
 生まれたときから虚弱だったオトウト様は、いとも簡単に私から両親を奪っていった。


 いい子にしてたのに。どれだけテストで100点取っても見向きもされなくなった。
 オカアサン。覚えてますか。
私の100点のテストをオトウト様が破ってしまったこと。
オトウト様を叱ることもせず泣き喚く私を叩いたこと。