ぽーんと、俺の頭上をボールが飛んでいった。
 あー、ダメだなこりゃ。


 「しっかりしろー!!ユキノー!!」
「すんませーん!」
先輩の怒号。
そういや部活中だったよ。
完全に忘れてた。


 「オマエさー、今日ぼーっとしすぎだっての」
「悪い」
心配半分、呆れ半分で親友のアキラが言った。
「あんまり先輩怒らせんなよ」
「ん。善処します」
「いや行動に移せよ」
 軽口を叩き合って、沈んでいた気持ちが少し軽くなった。
 「何か悩みでもあんだろ?それも恋の悩みだな!」
にやにや笑ってるアキラ。
こいつはこういうところが鋭くて困る。


 「厄介な相手を好きになった……」
潔く白状したほうが身のためだよなあ。
「アキラさんのお悩み相談室ー」
「茶化すなバカ」
「で?その相手は?」
「……同じクラスの、ハッチ」
アキラの顔が笑顔のまま固まる。
 「いやいやいややめとけってマジで。毒蜂ハッチだぜ?」
何だよ毒蜂ハッチって。
今初めて聞いたぞ。


 「やめとけってユキノぉ。オマエならいくらでも他にいるだろー」
「でもさ」
俺は変わってしまう前のハッチを知ってるから。
笑顔の似合う底抜けの明るさの女の子だった時を知ってるから。


 「んー。まあオマエが好きならいいと思うけどさ、ホントに悪い噂しか聞いたことないぞ」
「知ってる。好きだって言えば誰とでも寝るって話だからな」