桜の花が散り始めた頃、ようやく俺の存在が皆の中に確定し、確立されてきた。


 別にどこのグループに属するわけでもなく、こびるわけでもない。


 色々な人達の所を行き来するのは楽しいだけ。


「今日もお菓子いっぱいあるよ~!」


 昼休み、クラスの女子が俺の所へやってくる。


「ホント? ん~、じゃぁソレちょーだい」


「はい、どーぞ」


「陸~! こっちもあるよー」


 隣のクラスの女子も、わざわざ俺の所まで来る。


 そいつの顔が可愛くても可愛くなくても俺には全く関係ない。
 

「はいはーい♪」


 笑顔振りまいてれば、女だけでなく男でさえも俺に優しくする。


 こんな簡単な事で高校生活を終える事が出来るなら、俺はずっとこの状況を維持しよう。


「陸さー、お前今背どんくらい?」


 最近は、俗に言うイマドキなグループの仲間入り。

 
 入れてと告げる必要もなく、俺はずっと昔からコイツらと居るかのようにすんなりと輪に入る。


「ん~、一六七位かなー?」


「確か去年も同じ事言ってたよな」


「いーのいーの! みんなに可愛がってもらえるからこれでいいの」


 正直、昔はすげー気にしてた。


 俺だけ身長が中々伸びず、周りの奴らだけ男らしくなっていく。


 でも今ではそれに感謝してる――って言ったらおかしいか?



「だよねぇ~! 陸はそれ位が丁度いいって! つかアタシのタイプだし」


「お前の好みとか聞いてねーし」


「アハハッ。嬉しいよ、ありがと」


「あ、私より目が大きいところはちょっとイヤ! こっちは一生懸命化粧してるのにー!」


 昔から女みたいって言われてたから慣れた。


 さすがにカワイイって言葉は胸に突き刺さるけどね。


 
「つーか俺ら陸がキレたところとか、笑顔以外の顔見た事ねーんだけど……すんの?」


「あー、確かに。いっつも笑顔って感じだもんねー」



 それは表向きの顔だから。

 
 俺はここで本性を曝け出すつもりは全く無いし、馴れ合うつもりもない。


 こうやって笑顔でいれば向こうは油断し、ボロを出す。


 ――俺はいつだって人の上に立ち、有利でいたいのかもしれない。


「でも俺だって結構イライラしたりするよー?」


「えーマジでぇ!? 想像できん」