「もう、いい。宗助なんか知らない…、私、お会計してくる」


そう言って、私は席を立つ。


お会計を済ませてから、宗助を置いてそのまま帰ってやるんだ。


「つららさん待って」


「待たないっ」


今更引き留めないで。


私は、椅子に置いてあるバッグを持つと、足早にその場から立ち去ろうとした。


「会計はしてある。いいから座れよ」


私が立ち去るよりも早く、がっしりと手を掴まれて椅子に座らされた。


「ちょ、なっ、何すんのよっ」


そういえば宗助、途中でトイレに行くって席を外してたような。


「もういいでしょ、何なのよ!お互いが気まずいままなんだから、もう帰ったって…」


レストラン内から、いつの間にかざわめきが消えている。


あれっ?
もしかして私たち、周りから注目されている?



冷静になってみると、私たちってカップルの痴話ゲンカみたいな会話をしていない?


…何、この感じ。


「とりあえず、この店を出るか」


宗助もこの空気を感じ取ったみたいで、少し恥ずかしそうに鞄を持った。


「ん…、わかった」


もうこのお店、来られないかも。