「これ美味しいね。宗助、前に俺は白ワインより赤ワインが好きだーって言ってたよね。この牛肉のピカタ、絶対に赤ワインに合うよね」


「あぁ、そうだな」


「はぁ、残念だなぁ。私も宗助も車なんだよねぇ、せっかくのディナーなのに、お酒頼めないなんて。う〜ん、代行を呼んじゃおうかなぁ、いやいや、家まで遠いしなぁ」


「そうだな」


宗助は、運ばれてきた料理を黙々と食べている。


さっきから、絶対的に私のしゃべる回数の方が多い。


…き、気まずいっ…。


気まずい空気をはらうためにしゃべり続けて、更に気まずい空気になる。


これが噂の、抜け出せないデフレ・スパイラルですか…。


私が時間に遅れたから、なんか、仕事の話をしづらい雰囲気が漂っている。
かといって、たあいもない話も続かない。


調子狂うなぁ…。


楽しい時間のはずが、私を潰す重りのように、刻々と時を積み重ねていく。


そして、最後のデザートが置かれた。


もう私、耐えられないかも。


ぎりぎりだった感情の緒が、プツリと切れた。


「宗助のばか、宗助のあほ、料理、全然美味しく感じられない…、全然楽しくないよ」