「おはよう、山下さん」


「おはようございます。昨日は珍しく会社に泊まったんですね」


スーツとネクタイが、ハンガーに掛けられている。
淡いピンクのシャツが着こなせるのは、私が知っているかぎりではほんの数人だ。


悔しいけれど、似合っている。


「どうぞ」


彼の机にいれたての紅茶を置いた。


ティーカップの脇にはスライスしたレモン。
ちょっと本格的だなぁと、私は思っている。


「そんなことまでしなくていいですよ」


そう言いながら、彼は、香りを楽しむように口をつける。


「リフレッシュです。仕事の能率アップを狙っていますので」


「そう、上手くなりましたね。美味しいですよ」




あれは最初の頃、同じ気持ちで彼の前にいれたての紅茶を置いてみた。


もちろん、ティーパックと会社に備え付けの紙コップで。


アイツは、不審な目でそれを眺めたあと、一口飲むと私に言ったんだ。



「次からは、いりません」



そして、さっさと出ていってしまった。


えぇ〜!!
紅茶美味しいのに!


くっそぅ、絶対に美味いって言わせてやる!


彼はまた、私に変な闘志を燃やさせたんだ。