最初の一ヶ月は、頭が沸騰してしまうんじゃないかと思うくらい忙しかった。
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「おはようございます。今日から配属になりました山下つららです、よろしくお願いします。松本さんの秘書と言うことですが、まずは、何から始めたら宜しいのでしょうか」
配属初日、挨拶をした私に、彼は一言だけ答えた。
「仕事は決めてないですよ。とりあえず一ヶ月、全てを観察して、貴方が必要だと思うことをすればいい。もちろん、わからないことがあったら答えますよ」
なんて曖昧かつ、難しいことを言うのだろ。
そして、暗に語っているんだ。
君に仕事は教えない。
――能力を試してあげるよ、と。
ふぅ、今日は、黒いスーツにインディゴ・ブルーのシャツがよくお似合いで。
くそぅ、受けてやろうじゃないの。
「わかりました。では、私が《なに》をしても、口を挟まないで下さい」
彼は、足を組み替えると、嫌な笑顔を浮かべた。
「いいですよ。よろしく頼みますね」
それは、とても眩しい笑顔だった。