最近は、雑誌やネットに名前が上がるくらいには有名になった俺に、従兄弟たちは群がろうとしていた。


唖然とする周囲をよそに、俺は会場をあとにする。


顔だけみせれば、義理は通りますからね。


もう、あの頃の自分ではない。
生き抜く為の知恵も財力も持っている。



けれど、心に開いたままふさがらない。


まるで風穴のような何かを埋める為に、俺は女達を利用するのかも知れない。



夜空の中、携帯電話を取り出してメモリーを呼び出す。


無意識に山下つららの画面で手を留める自分が、なんとなく卑怯者のような気がした。


意識的に、その下のメモリーに電話をかける。


名前なんてどうでもいい。


『こんばんは、どうしたんですか、急に?』


「あぁ、市田さんでしたか」


通話中から流れる声は、市田美波のものだった。


『連絡くれるなんて、私、凄く嬉しいんですよ』



「それは良かった。では、これから、俺の相手をして頂けませんか?」


ざらついた気持ちに蓋をして、俺は人を踏みにじる。

人なんてそう簡単には変われない。


タクシーの中、爺さんに連絡をする。
わかりました。
その声が、耳に残った。