「晃一さん?聞いてましたか?」


「えぇ、聞こえてましたから。その事はもういいでしょう」


俺は、向かいに座る自分の母親に声をかけた。


一番厄介なのは、肉親かもしれませんね。


父親の方は、俺が海外に留学している最中に他界した。


あまり好きにはなれなかったけれど、亡くなった人間を悪く言う気にはなれない。


間に合わなかったけれど、俺に残した最後の言葉は、好きに生きろとかなんとか。


まぁ、父親らしい事は最後まで言わなかったのが、逆に父親らしかったのかも知れません。


あの一億を元手に、俺は海外に渡ったし母親は会社を起こした。


嫌だと思いながらも、結局は、そのお金を受け入れたのだ。
海外に逃げた後も、後継者として戻ってこいと、何度も嫌がらせを受けてきた。


そして、会社の後継者候補として集まった従兄弟たちと、こうして親族会と言う名の近況報告が開かれている。


「この会社を継ぐ気はありませんよ。経済的支援ならさせて頂いても構いませんが」


周りを見回しながら、冷徹な顔を作ってみせる。


「縁談の件も心配には及びません、俺は貴方に似て、異性に困る事はありませんので。では失礼します」