―――私はショックだったんだ。
頑張ってあの人に追いつこうと努力していたのに、結局、私はただの女だったんだと、あのキス一つで思い知らされてしまったんだ。
あの人に恋をしちゃいけない。
それは、悪魔は恋をして、その感情を簡単に捨てるから。
女の子を簡単に切り捨ててしまうからだ。
私はあの人にとって、それだけの存在だった。
恋愛が出来ないのなら、それ以外の、かけがえのない関係になれないのかな。
―――んっ?それってまさか、私が、あの悪魔を好きって事にならない?
い〜や〜、それはないでしょ!
…無いって思いたい。
けれど、浮かんでくるのは、微笑ましい松本さんとの戦いの日々。
私は、愛のありそうな苦しい程の激しいキスをされて傷ついていたんだ。
どうせ、嘘なのにね。
事故だとでも思って、忘れてしまいたい。
「くっそぅ、あの悪魔め」
あの冷たい程の、ただれた恋愛感情は欲しくない。
複雑な気持ちが押し寄せてきて、あの男が原因の涙を、私は初めて流した。
それは、とても静かに私の心に染み渡っていった。
認めてもいい、私は、あの悪魔が嫌いじゃない。