怖すぎた…。


モテる男の修羅場なんだろうけどさ、アレは無いですよ。


ホント、ないない。


あの後、鈴木さんは無言で走り去っていき、悪魔は静かに散らかった金属を片付けた。


「えぇ、データは回収しましたよ。詳細は明日、みなさんに伝えます」


多分、情報処理部のスタッフに繋がっているんだろうと思われる電話を切ると、私に向かって微笑んだ。




「恋人ごっこは終了です。山下さんのおかげで、無事に回収できましたよ」



変わらない、いつもと変わらない、作られた笑顔。




「安心しました。私、もういいですよね、少し外の空気を吸って参ります」


なかば独り言のようにいい放つと、早足で、女子トイレに駆け込んだ。











「あああぁぁぁっ!」


トイレに入り、鍵を掛けて、私は一度だけ、思いっきり大声で叫んだ。


大の大人、それも女がすることではないんだけれど、私は、叫ばずにはいられなかったんだ。


「あのキスは何?タオルケットやお昼ご飯の優しさは、全部恋人ごっこだったって言うのっ」


事件が落ち着いた今、押し殺していた感情が、一気にあふれ出してくる。


私の、この気持ちは何?