「あの、すいませんが、中にスーツを着た人はいませんでしたか」


丁度、化粧室から出てきた女の人に声をかける。


「えっと、今は私しかいませんでしたよ、入っている人もいなかったと思います」


何か俺、凄い変な人だな。
ちょっとした不審人物なんじゃないのか。

そんなことをチラリと思いながら、なるべく軽く、女の人にお礼を言った。


つららさん、どこに行ったんだ。


携帯電話を鳴らしてみる。
着信音は、すぐ横のつららさんのバッグから聞こえる。

当たり前か、荷物は全部、俺が持ってるんだもんな。

荷物を置いてどこかに行くなんて、子供かアイツは!
焦りとイライラが募る。


そんな事を忘れるくらいに、つららさんは独りになりたかったのかもしれないな。





―――でもな、俺が、すっげぇ会いたいんだよ。