アレは、いったいなんだったんだ?


市田を追って走り去る彼女の後ろ姿を漠然と見つめながら、俺は声をかけることも出来ないでいた。


「山下さん、行ってしまいましたね。市田さんは大丈夫なんでしょうか」


そう言いながら、この男は平然とグラスを傾ける。


「市田さん、具合いでも悪くなったのかな」


心配そうな佐々木をよそに、新堂は冷静に言う。


「山下さんが行ったんだし、皆で押しかけても迷惑だからまずは彼女に任せよう。あんまり遅ければ見にいけばいいし、市田さんの顔色もそんなに悪くはなかったですから」


「そうっすね」


そんな会話がかわされていたが、その声に現実感がわかない。


ただ思うことは、目に焼き付いてしまったあの光景をどう解釈すればいいのかわからない、俺の心だ。


離れていく二人の手を目にした途端、あの男に対して、とめどもない怒りが湧いてきた。


「松本さん、俺と少し話をしてはくれませんか?」


極めて感情を押し殺して、ヤツに話しかけた。


「彼女達が戻って来てからでは駄目ですか」


あくまで淡々とした態度に、感情が読み取れない。


「二人で話ができればいつでもいいですよ」