なにかしら、この夫婦漫才。

上司に頼まれてここにきたけれど、いつものやり取りバージョンアップ版を、こんな所で間のあたりにしてしまった。



山下秘書はわかっているのかな。
早見チーフの、ものすごく大切な者を見ているようないとおしげな眼差し。

こっちまで切なくなってしまうくらい、優しい、暖かい目だ。



「美波ちゃん、おはよう。美波ちゃんは、フワフワした綿菓子みたいで癒されるぅ、私、朝からラッキーだわっ」


ご満悦の表情で資料を抱え、山下秘書は私の横を通り過ぎる。

私は曖昧な笑顔しか、作れなかった。


完全に彼女の姿が見えなくなった頃、私は、早見チーフに話しかける。


「チーフも、みんなの噂は信じていないんですね、山下秘書はあんなに綺麗になっているのに」


「市田さんこそ。こないだはありがとな」


私は、少しだけ首を横に振った。


「あいつがさ、例えどんな奴を好きになっても俺は止める権利はないよ。俺を好きになってもらう努力はするけどな。ただ、あいつが恋愛云々で仕事を選ぶような奴じゃないことは、俺が一番知っているつもりだ。それだけは確信を持てる、松本さんは何を考えているのかはわからないがな」