夕暮れ時、彼は優雅に紅茶をいれていた。

そう言えば、今日、紅茶をいれてなかったな。

なんだ、自分でも出来るじゃん。
しかもすごく手慣れているし。


今度から、自分でいれて下さい。


そう思いながら、パソコンの画面に視線を戻し、ポチポチと仕事を片付け始めた。

明日の予定を把握しなきゃ。


・・・。

ふと、茶葉のいい香りと人の気配に、顔を上げる。


「たまには、いいでしょう」


ものすごい珍しい、優しい顔で頭を撫でられる。

机に添えてある左手の横に、カチャリとティーカップが置かれた。


頭に乗せている手がくすぐったいんですが。


「冷めないうちに、飲みなさい」


優しい口調は、やっぱり命令系なんですね。

私、猫舌なので、これ、すぐには飲めません。
香りはすごくいいんだけど、無理です。


視線が、飲みなさい、っていうか、飲めって言ってますよね。


私はやけどを覚悟して、ティーカップを口に運んだ。


「飲めるっ、美味しい!」


「ミルクティーです、適度に温度が下がるので、猫舌にはぴったりでしょう」


「山下さんが俺を見ているとき、俺も山下さんを見ているって事ですよ」