「ねー、サキちゃん」
不意に咲弥さんが私を呼ぶ。
次の瞬間、咲弥さんの唇からこぼれた言葉に血の気が引いた。
─さっきから携帯のバイブなってない? ずっと出ないから気のせいかな、って思ってたんだけど大丈夫?
ハハッと笑う咲弥さんの声が、頭からすぐに抜けていく。
耳を済ませば微かに聞こえる着信音。
ばっと外に目をやると、もう薄暗いなんてものじゃなく、空は真っ暗だった。
周りのビルの明かりで、一見暗いなんてわからないけど。
恐る恐る携帯に手を伸ばした。 咲弥さんはその様をじっと横で見てる。
「……もしもし」 おずおずと電話に出た私に返ってきた声は澄んでいてあどけなさの残る、可愛いらしい声だった。
『あっ、やっとでてくれました。
あんまり遅いから気になっちゃって』
もうすぐ花火始まっちゃいますよ、と親切に教えてくれる、ゆいとくん。
……意外だった。優さんだと思った。
遅いから、また逃げたのか、って言われるんだと思った。
「……ゆいとくん?」
『………?はい、なんでしょう?さきさん?』
「いや、その……。えっと、優さん達、怒ってる?」