太郎さんが、一緒にいた女の人のところまで行くと私はその人に上から下までじっと見られた。

別に嫌な視線でも何でもなかったけど、なぜか居心地が悪かった。
人じゃなくて物を見つめるかんじで。
その女の人は、高級そうではあったけど私服だった。

「はじめまして。
………………………彼女の、里香です」

充分に迷って言葉を探して彼女、だと名乗った里香さん。

「違うよリカちゃん、知り合いじゃない。
この子はサキちゃんっていってこの前出来た、僕のお友達」

その彼女をサラッと否定して、太郎さんは私の紹介をした。

とりあえずお愛想程度に、小さく里香さんに頭を下る。
なんだか今の太郎さんと里香さんの雰囲気に違和感を覚えた。


太郎さんは私を友達と紹介したのに、里香さんのことを“知り合い”だと言った。
この前会ったばかりの私でも友達なのに。
それよりも里香さんとの関係が薄い、なんてことあるんだろうか。


里香さんは太郎さんの言葉に顔を歪ませるくらいなのに?


“里香さん”と、この前会った“マリちゃん”


太郎さんの中の“友達”と“知り合い”の線引きはなんなんだろう。



悪いけど、今日はもう用事があるからリカちゃんはまた今度と、太郎さんは歩き出した。

えっ、と驚いたような声をあげたものの
言いたいことがたくさんありそうなのに、下唇を噛みしめ、うつむく里香さんを見て、やっぱり私より太郎さんに詳しいんだと、何も言わない里香さんを見て思った。

私なら、っていうか普通なら文句言ってる。
それを言わないのは相手をよく知っているからで、それすら言わせない太郎さんが余計わからなくなった。