「それにしても遅い」

 ミレド2世が本日、何度目かに知れぬせりふを吐いた。 
 騒ぐわけにもいかず、ふたりのできることと言ったら、いまだに扉の側をうろつくことくらいだった。すでに施術が始まって2時間は立っている。

「ええ」

 応えるメディアも上の空だった。
 時間が立つにつれて、不安もつのってくる。ラムルダを信頼していないわけではない。むしろ、逆だった。彼にできなければ、他の誰にもできないだろう。

 ただ、ロランツは自分を助けるために、魂が本来持つエネルギーを使ったようだった。それは命の力。自らの生きる力を削ることだった。

(あのバカ! いつもいつも無理ばっかりして。ただの人間の力しか持たないくせに)

 答えはわかっていた。そして、もし逆の立場だったら、自分もそうしていただろうことも。

(私なんか、頑固でわがままで、おまけにちっとも可愛くない。そんなののために、わざわざ命をけずるなんて、ほんとマヌケのすることだわよ。もうとんでもないお人好しなんだから。このまま私に何も言わせないで、死んじゃうなんて承知しないんだから)

 母親から突き放された寂しい子ども時代を過ごしたために、人を愛することも、愛されることにも、不器用な少女は、大人になろうとしていたのかもしれなかった。

 静かに扉が開かれた。
 さすがに疲れた表情をしたラムルダがあらわれる。

 それまでにかなり魔力を消耗し、さらに回復する時間をとることができなかったために、かなり辛い作業だったのだ。