吸魔樹は飽くなき本能と底を知らぬ渇望に突き動かされるままに、その強大な魔力を貪り喰らい、自らの糧となそうとした。が、それは吸魔樹が一度に吸収できるエネルギーをはるかに凌駕していた。

 その瞬間、ウィルランドの住民は暮れかけた北の空を背景に、沸き上がった炎の柱を目にし、次には大地を震撼させるほど凄まじい轟音を耳にした。

 もし、この変事がそれ以上長く続いていれば、人々は恐慌状態に陥ったかもしれかったが、それは始まったときと同じように唐突に終わった。不安と不可解さを感じながらも、人々はいつもの日常へと戻っていくしかなかった。

 これに乗じて世界の終わりを説き、人々の不安をあおろうとしたものもいたことはいたが、けっきょくは無視されるか、世情を乱した罪に問われることとなる。

 このことの意味を一端なりともを理解したのは、魔法院の院長ラムルダだけだった。

 彼はその時、魔法院の一室で、いまだに居座っているロランツ王子の父ミレド二世と話をしていたのだが、強力な魔力の突出を感じ、その大ざっぱな魔力の波動がメディアのものに他ならないことを認識した。

 彼女の身に何かが起こったことは確かだった。そうでなければ、あんな歯止めのない力の放出を、いかに強気のメディアとてするわけがない。

「ラムルダ殿、これは一体!」

 轟音に驚愕したミレド二世がさけんだ。