「まったく、あいつらときたらそろいもそろって変人なんだから、やってられないわよ」

 窓のない薄暗い部屋。

 壁一面にしつらえられた書棚にはなにやら小難しい題の本があふれ、ついには床までうずたかく積み上げられている始末である。

 そこで、大声で愚痴っているのはまとまりの悪い赤毛に、ライトグリーンの瞳をした一五、六くらいの女の子。
 
上向き加減の丸まった鼻に顔一面のソバカス、とがったあご。決して美人とは言えない。

 見た目だけなら、どこにでもいそうな女の子と言ってもいいだろう。

 だが、彼女は竜退治の魔女の異名をもち、その偉業によりウィルランドの世継ぎの君ロランツ王子の婚約者でもあった。

「だいたいね、息子が愛のない結婚。しかもとんでもない野心を持った女と結婚しようというのに、反対するどころか逆に煽る親がどこにいるのよ! 子も子なら親も親よ。変人の親玉よっ!」

 この場合、とんでもない野心を持った女というのは他でもない彼女自身である。彼女、竜退治の魔女メディアは変人の親玉、もといロランツ王子の父、すなわちウィルランド国王であるミレド二世に恐れげもなくこう言い切ったのである。

「私、別にあなたの息子が好きで結婚するわけじゃないんですからね。彼と結婚すればいずれはウィルランド王妃。この国を手に入れたようなものよ」