高橋に話して、気が楽になった。
先輩には話さなかったことを、高橋にはためらいもなく話せた。
高橋だから話せたのか?いや、それとも俺自身が変わろうとしているのか---?
もし、今ここでこいつに触れば変わるのか?このモヤモヤが無くなるのか…?
俺は、恐る恐るエレキギターに手を伸ばす。
『お前には才能がある。お前なら出来るはずだ。だから-』
ドクンッと、心臓が大きく跳ねる。
触れる数センチの所で、アイツの言葉を思い出し伸ばしていた手を引っ込める。
歌に関われば、あの日のことを思い出してしまう。
いやだ…。あんな思いはたくさんだッ!
だから、俺はもう二度とこいつに触れないし、歌わない。
それに、今さらバンドの仲間に会わす顔なんてない。
俺は、変わらない方がいいんだ。もう二度と、なにがあってもコレに触ってはいけない。
「…ごめんな」
かつてのバンド仲間に。そして、こいつに謝りながらケースを閉める。ケースを閉めた時、パタっと乾いた音が静かな部屋に響いた。