そして孝輔は… 反省する心はあるものの,大輔の気持が重苦しくのしかかり、反って家からの逃避をしていた。


真理子が部屋に籠るようになって以来、孝輔の帰宅時間も遅くなって来たが、真理子の存在に孝輔への関心は薄らぎ、干渉される煩わしさも少なかった。


あれ以来大輔は何も言わなかった。


どうやら大輔は自分のすべき事に集中しているようだ。








家の雰囲気は微妙に変わって来ているが、

孝輔は相変わらずアキの誘いには断われず、

ますます別の世界に入り込んでいた。



「ねえ、ビール、一杯ぐらい飲んでみなさいよ。」



孝輔が用意されていたベッドに腰をおろした時、
アキが微笑みながら自分が飲んでいるビールを勧めた。



「駄目だよ、アルコールの匂いが残れば家族に見つかってしまう。」


「相変わらず子供っぽい事を言っているのね。いいわ、じゃあコーラね。」



アキはそう言いながら不敵な笑みを浮かべたが、孝輔には分からなかった。




その頃、ラブホテルは人目につきやすいと言う事で、
二人は駅裏にある鄙びたスナックにいた。


アキにしても人目は気になったようだ。


その店の開店は夜、七時以降と言う事で夕方は誰もいない。


何故かアキはそのスナックの鍵を持っていた。


孝輔が、ラブホテルに入るところを見られたからどうしよう、
と動揺した素振りでアキに話した時からここに来ている。


普段の孝輔なら、一人ではとても足を踏み入れる場所ではない。

しかし、その頃の孝輔は、アキがいれば何でも可能、と言う、

まさに普段の孝輔が育んできた魂を、

知らぬ間に骨抜きにされているような心境だ。