あの蕩けるようなキス。

「……――っはっぁ。お兄、ちゃん!」

 やっと自由になって大きく息を吸う。全身が熱かった。

「バイトは要検討。勉強も頑張るのが学生の領分だからね。家庭教師は安心できるヤツを知り合いに頼むよ。悪い虫がつかないように」

 くさい演技に騙された直後なのに強く熱い二つの瞳に飲み込まれそう。

「やっと手に入れたんだ。簡単には手離さない……覚悟して」

 その熱く吐きだした言葉に息苦しいほどの幸せを感じた。悔しいけど、あたしはこの人に夢中なのだとはっきりと自覚する。

 まだ全てを捧げてなくても、もうあたしはお兄ちゃんのものだった。

「よし。行こうか」

 そんなあたしの気持ちを知ってか知らずか手を引いて体を起こされる。

 どこへ?
 聞き返すのを忘れてついていく。

「もう、引き返せないよ? 覚悟出来た?」

 階段の途中。
 振り返って言ったお兄ちゃんの二つの瞳は、怖いくらい透き通っていた。