あたしは、とりあえず頭を冷やすために水を飲みに1階へ降りた。
「あら?
杏里ちゃん・・・」
おばさんが一人でテレビを見ている。
「おば、さん?
まだ寝ないんですか?」
「うん。
主人のこと待ってるのよ。
一生懸命働いてるっていうのに・・・
帰ったらだれもいない、なんて、
あんまりじゃない?
『寝てていい』って言われても、待っちゃうものよ。」
ふふっと可愛く笑うおばさん。
なんか、ほほえましい。
あたしも、もし誰かと結婚して、専業主婦になったら・・・
おばさんみたいに待ってよう。
そんな決意をした。
「杏里ちゃんは?」
「なんでも、ないんです。
ちょっとのどが渇いたから・・・。」
笑顔を作ってごまかす。
すばやく、水を飲んで・・・・
早く寝ようとしたら、呼び止められた;
「悪いけど、上へあがるんだったら、
これ・・・
遼に渡してあげてくれない?」
そう言って遼くんの携帯を手渡す。
えぇぇぇぇぇぇぇ~~!!!
このタイミングで、それはないよぉ。
「なにか、だめなところでもあるの?」
あたし、顔にでてた!?
おばさんは不思議そうにあたしを見る。
「な、なんでもないです!!
渡しときます;」
バッと携帯をとってすばやくその場を立ち去った。
でも、当然遼くんに会えるはずもない。
・・・・・しょうがない。
明日渡そう。
あたしは、忘れないようにかばんの中へしまった。
明日、持ち物確認するときに思い出すから。
*遼side*
朝だ・・・・。
結局、昨日のがなんだったのかわからないまま朝を迎えてしまった。
俺は、とりあえずいつもどおり制服に着替える。
鏡を見ると、いつもどおりさえない自分が写っている。
なんで
先輩は俺にキスなんて・・・・
いや、そのまえにホントにあれはキスなのか?
唇がたまたまぶつかっただけとか?
ありえないか;
ガチャ・・・・
「あ。」
タイミングがいいのか悪いのか、
部屋のドアを開けると、
そこには先輩がいた。
ダダダッ・・・・
え??
先輩は、逃げるように階段を駆け下りていった。
そんな、あからさまに避けなくても;
俺は、仕方なく一人でリビングへ向かった。
先輩は先にぱくぱくと朝食を食べている。
「遼、おはよう。」
母さんは相変わらず朝からテンションが高い。
「おはよ。」
俺は、そのまま席についた。
「おはよう、遼。」
「おはよう。」
まだ目が開いてない父さんの横が俺の席。
そして、向かいは先輩。
・・・・・なんか、すげぇ気まずい。
先輩は、俺のこと見もせずに食事を続けている。
あきらかに避けてるよな?
さっきも思ったけど。
俺は、小さくため息をついて箸をとった。
*
「行ってきます。」
先輩の、そんな声が聞こえてあわてて俺も玄関へ急ぐ。
昨日のことを、ちゃんと説明してもらわねぇとな。
「行ってくる!!」
俺は、足早に玄関をでて、何mか先にいる先輩をおいかけた。
「一緒に行かないんじゃないの?」
隣に来た俺を、見上げる。
「今日は理由があるんで。」
「理由・・・・?」
ちょっと嫌そうな顔。
意味、わかってるんだ;
「えぇっと・・・・。」
あぁ・・・この場合
どうやって切り出せばいいんだ?
率直に言っちゃっていいのか?
「なに?」
「いや・・・
だから、昨日のことです。」
言っちゃった・・・・。
先輩は、気まずそうな顔で俺を見上げる。
「・・・・昨日の、ことかぁ。」
やっぱりと、言った感じだ。
「はい。」
・・・・・・・・。
先輩は、口を開こうとしない。