─ガラッ
…先生居ねえのか。自分で消毒すっか。

「あ、ナルシスト。」

─っ!?振り返るとベッドの上で自分の部屋のようにくつろいでる奴がいた。ベッドの横の棚には私物であろう物がたくさん置いてある。明るい茶色い髪、細い腕、小顔、上目遣いで…

「どう、可愛い?バージョンアップしたんだけど?」

………。

「さっきの女!問題児!」
「…何その反応?何か可笑しいわけ?ナルシスト。」

眉間にシワをよせてさっきの問題児が不機嫌そうにそお言った。

「嫌…可笑しくないです。」

何俺は生徒相手に敬語使ってんだ。

「どうしたらそんなとこ擦りむくわけ?ナルシストの罰が当たったんじゃない?」

そう言いながら問題児はベッドから降りてきた。

「は!?さっきからナルシストナルシストって何で俺がナルシストなるんだよ問題児!」

「だってナルシストでしょ?教室出てく時絶対こいつナルシストだって思ったもん。」

濡れた脱脂綿を俺の頬に気遣うように触れた。

「─っ!?」
「ごめん、しみた?」
「………。」
「舞、ここの常連だからほとんど先生いないの。だから誰かが来ると消毒とかしてあげるんだ。」

ペタッと絆創膏を馴れた手付きで貼った。

「…ふっ(笑)サンキュ!お前意外と良い奴なのか?もっとひねくれてると思った。じゃあな。」

問題児にも可愛らしいとこがあるんだなと思ってぽんぽんっと頭を撫でて俺は保健室を出ようと後ろに振り返った。

「―舞。問題児じゃなくて笠原舞。」
「潤。ナルシストじゃなくて市川潤。」

首だけ回れ右をして俺はそう言って保健室を出た。

「あ!市川君。笠原さんがしてくれたの?」
「え、あっはい。」

当たり前に聞くなよ先生。いけないことしたみてぇじゃん。あの女…笠原、"普通"じゃないこと"当たり前"に変えすぎだろ。

「今日はもう帰っていいわよ。来週からよろしくね!」
「はい。お願いします。」



ぼーっとしながら帰ってたら気付いたら家に着いていて、俺は寝る時今日の保健室での出来事を頭の中で反芻していた。

『─っ!?』
『ごめん、しみた?』
『………。』

あの時、しみたんじゃなくてあいつの行動に驚いて俺は間違いなく心を奪われていた。