黒は何色にも染まらないと
誰が言ったのだろう
それは黒に染まったら
もう元には戻れないということだろうか
漆黒の中を見えない色が揺れる
ただ流されるままに染められ
色を取り戻す為に
闇を光が照らす様に
光の色で
完璧な白に戻らずとも
必ず私は漆黒を染め返す
朝の眩しい太陽が浴室に光のカーテンを作る
キュッとシャワーを止め浴室を出ると、バスタオルを頭に被り乱暴に擦った
背中には大きな蜘蛛のような模様が痛々しく浮き出ている
スーツに着替え鏡の前に立ち、ドライヤーで適当に髪を乾かした
艶のなくなったシルバーと黒のツートーン
パサパサの髪をブラシで掻き上げ、前髪も全て高い位置でまとめて1つに縛る
落ちてこないようにスプレーで固め自分の部屋に戻った
ベッドの上のネクタイを首に掛けキュッと締めると、テーブルの前に座り鏡を立てる
仕事用の薄い化粧は15分ほどで終わり財布と手帳を鞄に詰め込む
時計を腕に巻き付けるとケータイをポケットに入れ部屋を出た
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目立つ格好をしているとどこに行っても注目を浴びることになる
まさに今がその状態
マイクスタンドの前に立った途端その場がザワザワと騒がしくなる
3割は新しい先生が来たから
あとの7割は全部見た目だろう
「すげー」だの「いかつい」だの
いろんな声が飛んでくる
まあ確かに無理もない
髪の色はシルバーと黒のツートーンだし全部きっちりとオールアップ
口、眉、耳、舌全部で9箇所開いているピアス
左右で違う色のカラコン
爪も黒と赤に塗っていて左右合わせて5つの指輪
これぐらい何処にでも居そうだけど
さすがに女、しかも先生となるとこの外見は珍しいようだ
そんな事を考えていると教頭の声が体育館に響いた
「それでは自己紹介をお願いします」
「…はじめまして。今日からカウンセラーとしてこの学校で働くことになりました、三神瑠香と言います…よろしく」
今の自己紹介で言ったように
私は今日からカウンセラーとしてこの学校で働くことになっている
といっても普通ならこんな容姿の人間を先生として受け入れる学校なんて…無いに等しい
この学校が母校で校長が知り合いだった
それで校長に話したら雇ってくれた
だから私は今ここにいる
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体育館から出ると次の時間はHRだと聞き、少し学校の雰囲気を見て回ることにした
しばらく歩き回り非常階段に出た
階段を降りると
見たことのある目の前の光景にうんざりした
なにやら女3人が1人を囲って集っている
世間一般で言ういじめだろうか
しばらくその様子を見つめていると、私に気付いたそいつらは何処かに消えた
呆れて言葉が出てこない
「あの…」
声の持ち主を見下ろすと髪はボサボサで、目を真っ赤にして泣いていた
「何?」
別に助けたつもりはない
ただ見ていただけ
何も言わないその子にため息を一つ落として階段を降りた