先輩。
あの時、先輩が私を見てくれて視線が交わって心拍数が上がって異常にドキドキしたこと、今でも覚えてるよ。
溶けちゃいそうなくらい暑い夏に、溶けちゃいそうなくらい甘い恋をした。
『ぶっふぉ!あの人、あの人だよっ!』
突然、口に含んでいたカルピスソーダを吹き出して目を真ん丸くした由香の視線の先にはひとりの男子生徒がいた。どうやらこちらへ向かってくるよう。
『えーどれ~?あ、あの背高くて足が』
『そうそうそう!やっばぁい。』
叶香の言葉はあっさり遮られて由香がその生徒を指差して頬を赤らめている。
『そんなに好きなら告白しちゃえば?』
『へ?そんなの無理だよ!』
『なんで?あ、ほらこっち来るよ。』
『無理無理無理!ほんと無理!』
彼はのうのうと目の前を横切ったのに、由香は何もしない。ただ見てるのが幸せなんだと必死に言い張る。
そして彼が昇降口を後にしたのを確認すると叶香と由香も駅へ向かった。
『ん…?あれって』
駅に着くとさっきこちらのことを気にもせずすれ違った男子生徒が立っていた。
『ね、あそこ。さっきの?』
『うっそ、あー!忘れてたぁ。』
『あの人も電車なんだね。』
由香は、態と近くに座れるように彼の後ろに並んだ。呆れきった叶香も、嫌々ながら由香の隣に並ぶ。
彼と同じ入り口から入って、ちょっと間を開けて座る。
『ねぇ、由香。あの人って同い年?』
彼にバレないようにガン見している由香の肩を突っついて、問いかけた。しかし聞こえてなかったのか反応が全くない。
『ねぇ!』
大きな声を張り上げてみた。
『ふぇ、は?あぁ、ごめんごめん。』
『聞いてなかったんでしょー。』
ちょっと拗ねた口調で再び問いかけた。
『あの人は2年生の先輩だよ。』
『そうなんだ。あんな人いたっけ。』
ちょっとだけ感心したように先輩を見つめていた。すると先輩がこっちを向いて、ふたりの視線が絡まった。
その瞬間急にドキドキして心拍数が増えてくのがわかった。