何かにつけて、始まりはいつも突然だった。

しかもツイてない。
隣の部屋の母に聞こえないくらい、小さなため息をついて後藤蘭(ごとう らん)は鏡の前に立っていた。

彼女の生まれる前からこの家にあるらしい姿見は、経た年月を表すかのように古ぼけている。

そんな古ぼけた鏡には対照的に、真新しい制服姿の自分。

本当はこんな自分見たくなかった。

一度天を仰いで、彼女はまたため息をついた。

受験に失敗したのは3月上旬のこと。

合格圏内と言われていた名門校、琴生(ことみ)高等学校の試験で不合格となった。

『念のため』と受験しておいた滑り止めの名瀬学園高等部。

その制服を着て今日入学式を迎えるなど、一体誰が予想しただろう。

周りの人間はもちろん、蘭自身が一番驚いたに違いない。

別にエリート思考だった訳ではない。ただ、成績優秀であった上の兄、姉が琴生の制服を着て高校生活を送り無事卒業を果たしたことで、自分も当然琴生に行くのだと信じていた。

そんな気持ちでいただけに、自分だけが琴生に進めなかったことは蘭の中でプライドが傷付く以外の何物でもなかった。