やがて、加奈子はフッと笑うと、男に背を向けた。

「下らんな。あたしはどこにいても、あたしだ。もしこのあたしを利用しょうとするやつが、いるならば…」

そして、歩き出した。

「殺すだけだ」

最後に殺意を込めてそう言った加奈子に、男は笑い…一呼吸置いてから言葉を発した。

「その覚悟が、普通の人間にない。殺す!殺すと言いながら、何と少ないことか!世の中!殺人が少なすぎる!」

「はあ?」

男の言葉に、加奈子は眉を寄せた。

「と思いません?この世界の不平等は多い!なのになぜ!人間は、我慢する!我々の努力を搾取するだけの人間を許す!恵まれた環境に生まれ、育っただけの人間をなぜ野放しにする!殺せばいい!奪えばいい!」

「お、お前!」

「いいですか?そんな人間よりも、下の人間の数は圧倒的に多いのですよ!」

男は、感情を爆発した。

「人間は社会的動物だ!しかし、奴隷ではない。働き蜂のように尽くせばいいのか!違う!人間は!人間は!」

「き、貴様!」

加奈子は思わず、乙女ケースを突きだした。

「人間ではない何かに!殺されるべきなのだ!人間同士の殺しが罪ならばな!」

「装着!」
「やめておけ…。人間は、誰も支配者にはなれない。それだけが、真理だ」

「え?」

加奈子は突然、後ろに現れた影にぞっとなった。身を震わせながらも、回し蹴りを放ったが…その足は、影に包まれた。

「!」

数秒後…影は消え、加奈子と男しかいなくなった。

にっと男は笑うと、拍手した。

「おめでとうございます!」

廊下に響く拍手の音に、加奈子は笑った。

「まあまあだな」

その声は、加奈子ではなかった。

「あなた様の復活を心から、お祝い申し上げます」

男はどこからか、黒薔薇の花束を取り出すと、跪きながら差し出した。

「闇の女神…デスペラードよ」

黒づくめの男の服装が、タキシードに変わった。