私は作業中の勇の背中に声を掛けた。
「作ってくれたの？うれしいよ。」
　勇はそんなことを言ってはにかんだ。勇はゆで方が丁度いいよ、とか、作ってもらえたものはとっても美味しいだなんて言いながら、本当に美味しそうに私の作ったパスタを食べていた。喜んでもらえることはうれしい物だった。
ふと小さい時に私の作った焦げたクッキーを食べた父のことを思い出した。失敗して泣いていた私の目の前で父は焦げたクッキーを一枚手に取りそれを口にした。美鈴が頑張って作った味がする、美味しいと言ってくれたこと。そのとき感じた暖かい感覚と同じ感覚が今まさに蘇った。
「家のお父さんのラッキーナンバー知ってる？解るわけ無いか。」
　フォークを置いて私は話した。
「８と４なの、何の数字でしょう。」
　勇は頭をひねって考えていた。
「解らない、何の数字？」
「家のお母さんの誕生日。」
「そうなんだ。お父さんは、美鈴ちゃんのお母さんのこと愛しているんだね。」
「うん、今もきっと天国から見守ってるよ。」
「天国から？」
「６年生の時に亡くなったの。」
　勇はそうだったんだと、少し私に気を使うようなそぶりを見せた。
「勇君の家族は？」
「家の家族はもういないよ。東京にいとこが住んでいるくらいかな。」
「寂しくない？」
「もう慣れちゃったよ。」
「美鈴ちゃんもしかして寂しくなっちゃった？」
　私は横に首を振った。
「大丈夫、今ね私少しずつ身辺整理をしているの。心の掃除を、、。」
「そうか、それはいいことだよ、この綺麗な空気と海がみんな洗い流してくれる。」
　私は自然と微笑んだ。
　本当に心なんかが存在するのなら、いっそのこと新しい物に変えてしまいたい。
「今日は天気がいいから、きっといい夕日が見られるよ。」
「夕日？」
「そう、表の浜にハンモックをかけてそこで見よう。日が落ちるとゆっくりと、星たちが降りてくるよ。」