「取りあえず長旅で疲れたでしょ。まずここを離れようか。」
 私はこくりと頷いた。すると勇は私の持つキャリーを手に取りそれを引いてくれた。私は何も考えるすべを失い、ただ呆然とキャリーを引く勇の後をとぼとぼと歩いていった。勇はたまに振り替えり私の歩くペースにあわせてくれているようだった。
 勇はこんな大怪我をしていたなんて。いくら性格がいいとか、話が合うとか声が綺麗だとかいったって。こんなに目立つ怪我をしていたら。私は歩きながらぎゅっと目を瞑り、横に何度も首を振った。もちろん勇に気付かれないように。思わずため息が漏れてしまった。本当は期待してたのに、好きになれると思ってたのに。
 涙が溢れそうだった。こんなに遠くまで来て。勇がこんな状態だなんて。勇は私を駐車場まで案内した。歩く速度が明らかに落ちた私に勇は気を使った。
「疲れた?」
「うん。」
 私はまたこくりと頷いた。きっと勇は真実を追究するような言葉を言いたかったんだと思う。さっきいった言葉のように。いやなら、いやだってはっきりこの場で言って欲しかったんだと思う。だけど私にはそれが出来なかった。
「新しいサンダルだったから履きなれなくてなんだか疲れちゃったの。」
 私はそう言って勇に微笑んだ。
「そうか、じゃぁ車に乗って。食べたい物とかあるかな?」
 一瞬心が乱れた、この火傷だらけの人と、一緒に外食?自分以上に人目が気になった。私は酷い人間だった。
「疲れちゃって、何が食べたいのかわからない。」
 そう言って少し罪悪感を感じた。
「そっか、じゃぁ取りあえず僕のうちに行って。少し休もうか。」
 私はそこでまた頷いた。
「最近は日が長いよ。日没は7時30ころかな。」
 勇は少し古い型のラブフォーの後部座席に私の荷物を乗せた。丁寧に助手席のドアを開け私の手を取ってくれた。私を乗せドアを閉めると勇は反対側に周り込み運転席に乗り込んだ。
「もうすぐ今日最後の日の光が届きそうだね。うちの裏の海岸からは夕日が綺麗なんだよ。今日はもう間に合いそうに無いけどね。一週間ここにいるんでしょ?まだ決まってないのかな?でもその間に一回はゆっくり見るといいよ。綺麗な夕焼けを。」