香織は私にそう言ってくれた。単なるおせっかいで言ったんじゃないってことはすぐに解った。
「それからさぁ、もしも美鈴に新しい彼氏ができたら。ちゃんとあたしにも教えてね。例えばそいつがね、もしも美鈴を傷つけるようなことがあったら、あたしがそいつを絶対許さないから。」
 香織は私の目をまっすぐ見つめながらそういった。その言葉はまるで弓矢みたいに私の心に深く付き刺さった。感情があふれそうになった。ありがとう。私は香織にそう言った。
 桜の花はもう満開だったけど、薄手のコートはまだまだ手放せそうになかった。香織と別れたあと私は一人見慣れた町を歩き孤独の感慨にはまった。
いつものこと、私はいつも一人だから・・・。春風がオフホワイトのスプリングコートを揺らした。その風はひんやりと冷たかった。目深にかぶった帽子は、私に青い空を見せてはくれなかったけど、きっと今日の空も、抜けるように青いんだろうなって私は直感した。私の心も過去も、そんな空みたいにまっさらになれたらいいなって思ったけど、叶わない思いを抱くのはやめようって、すぐにその思いを打ち消した。
 本当は、全てをやり直したかった。
 やりきれない侘しさと共に私はどこかでそんな思いも抱いていた。一度失敗した人間に未来なんて無いって思っていても。
私だってこのままでいたくないって、負けたくないって、いつかは幸せになりたいって。そんな感情を全て拭い去ることは出来なかった。
 あれ以来いろんなことを深く考えるようになった。