香織は、何気なく確信を付いてきた。こんなふうにふざけていてもなんだかんだ私の行動は香織に見透かされていた。私なんかよりずっと大人なんじゃないかなって思わされる瞬間が、彼女のどこかにいつも存在していた。
「違うよ。」
私は電話越しに首を横に振っていた。
「なぁんだ、良い報告かとおもったのになぁ。」
 その言い方に私は思わず笑ってしまった。
「でも。気になる人がいるんだ。」
「えぇっ!!」
香織の驚きは電話越しにも伝わってきた。
「驚きすぎだよ。」
「だって、よかったじゃん頑張りなよ。で、どんな人なの?その人。」
〝どんな人?″その質問を耳にした瞬間、私は答えに戸惑った。
どんな人?私は彼の顔すら知らない。
「うん。ガラスを作る職人さん。」
 取りあえずではなかったが、私は私の中の彼を構成する一つのキーワードを口にした。
「えぇ~。ガラスってどんなガラス作ってるの?」
 誰だって同じことを聞きたがるって思うのに、だけどここに来て私は全てを話すことに急にためらいを感じ始めた。思うままに彼のことを話せば良い。そうは思っているはずなのに。