香織 「いいの。私の本当の名前だから。」
いさむ「わかった、これからは、美鈴ちゃんて呼ばせてもらう。」
香織 「うん。」
 私は無意識に微笑んでいた。
いさむ「ちなみに僕の名前はそのままだよ、強いて言えば漢字かひらがなかってだけ。」
 〝三上 勇″
 彼は最後にそうログを打ち込んだ、、。
いさむ「僕の名前はみかみいさむだ。じゃぁまた会いに来るよ。それまで美鈴ちゃんも元気でね。」
 私は頷き手を振った。片方の画面に私しか映っていないバランスの悪いモニターに向かって。《いさむさんがログアウトしました》
見慣れた文字も相手がいさむだとなおさら虚しく感じた。まるで永久の別れをするみたいに。私は彼が好きなんだろうか、顔すら知らない彼のことが。会いたかった。あって実際にあの話の続きをして欲しかった。沖縄までは一体いくら掛かるのだろう。勇の休みは何時なんだろう。だけど彼、忙しいかもしれない。そんな先走った考えばかりが私の頭の中を駆け巡っていった。季節は少しずつ移り変わる。桜がちり、若葉が芽吹く、私の中の時間が止まろうとも世界の時間は廻り続けていた。
 私は久しぶりに電話を手にした。本当の私を知る誰かと話しがしたかったから。アドレスのメモリーは今となっては少ないものだった。私は香織に電話をかけた。誰かに聞いてもらいたかった、彼の話、勇の話を。
「もしもし?香織、元気?」
「久しぶり、あたしは元気だよ。美鈴は?元気してた?」
 私は電話を握り締めた。久しぶりに聞く彼女の声にほっとした。
「なんか珍しくない?美鈴が急に電話してくるなんてさ。」
 そうかなぁ?私は鼻で笑いながらそう答えた。
「彼氏でもできたかぁ?」